「ゆめみるケモノ」

ちょっと不思議なお話や、お菓子にまつわるショートストーリーを掲載します。

2008-08

ザッハトルテ [スウィーツ・ディオラマ]

ザッハトルテ(独:Sachertorte)は、オーストリアの代表的な菓子(トルテ)。チョコレートケーキの一種。

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ウィーンのホテル・ザッハーの菓子職人フランツ・ザッハーが、メッテルニヒの命を受けて1832年に創出した(1814〜1815年のウィーン会議で創出された、とする説もある)。以来ザッハーのスペシャリテとして好評を博す。門外不出とされたが、ホテル・ザッハーが財政難に陥った際に援助を行ったウィーンの王室ご用達のケーキ店・デメルの娘が嫁いだ際、レシピが流出し、ザッハトルテの名を冠して発売したことから商標等をめぐる裁判になった。

出典:『フリー百科事典・ウィキペディア(Wikipedia) 』より抜粋。

「続きを読む」でストーリーをお楽しみください。
「スウィーツ・ディオラマ」の表紙と目次


ザッハトルテ


 短期大学の二年の夏休みを過ぎてしばらく経つが就職は決まっていない。
 これまでの就職活動でいくつか内定を貰ったが、結局どの会社も気に入らなかった。

 祥子は都心のカフェの椅子で何度も足を組み直しながら、自分の履いているハイヒールを見ていた。運ばれてきたケーキと同じ色のその靴が、祥子の勤めるべき会社を選択しているのだ。

 手にしたフォークの先でチョコレートの表面を軽く引っ掻くように滑らせてみた。
 傷は付かなかった。
 フォークの背でその硬い表面を叩くとコツコツと乾いた音がした。

 そう、その音なのだ。

 いつの頃からか、大人になるというのは覚悟のようなものを持ってハイヒールを履く事だと思っていた。ところが内定をくれたそれぞれ会社に向かう道で、祥子のハイヒールはただの一度も乾いた大人の音をたてる事はなかったのだ。

 そんな会社に勤めてもきっと何ものにもなれないと思った。

 子供染みた失敗でケーキを逃がしたりしないように、フォークを立てて慎重にチョコレートの表面を割る。
 友達はこの店のザッハトルテが東京でいちばん苦いのだと言っていた。

 本当だろうか……

 ケーキは表面のチョコレートだけでなく、焼き締められたスポンジも間に挟まれたクリームも何もかもが硬かった。
 そして本当に苦くて、深い。

 やがてしっとりと広がる成熟した甘さに、浮ついた甘えは微塵も無かった。
 うん、やっぱり妥協はしない。

 本当はハイヒールが何かを決めているのではないと分っているけれど、このヒールを履いた私が納得するまで自分の何かをぶつけられる会社を探そうと、祥子はあらためて決心をした。

………………

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